タイムトラベラー

「今行けるならどこに行きたい?そして、会えるなら誰に会いたい?」

「今は社会情勢がアレだから海外旅行は難しいしなあ。かと言って国内ならって言われても、どこがあるだろう。会えるならちょっと遠くに住んでるあの人かなあ」

 

どこを、誰を、思い浮かべるのだろう。私が真っ先に浮かんだのは、性懲りもなく「あの時に戻って、あの場所に行って、あの人に会いたい」だった。

 

 

真っ先に浮かんだのに言葉にするのは躊躇った。言葉にするより先に「私はまた過去に生きている」と気付いたから。そしてもう一度考えたのだけれど、会いたいのはあの時傷付けたあの人や、あの時突き離したあの人、あの時の、あの人。結局過去の人しか浮かばなかった。

こうして今を大切にできないから、今の人が過去の人になった時に、会いたいと思うのだろう。いつまでこんなことを続けるのかな。

 

 

私が会いたいのはみんな過去のあの人たちなのだけれど、一人だけ、少し違う。過去の人であることは同じなのだけれど、一人だけ、その真っ先に浮かんだあの人だけは、過去に戻って、あの場所で、会いたい。

他の人たちは、過去に戻って会う必要は無くて、今でもいつかの未来で会うでもいい。場所も正直どこだって、何なら仕事の帰り道に駅でばったりとかでもいい。とにかく会って謝って、その後元どおり仲良くなりたいかどうかはどうでも良くて。会って謝って許してくれなくていい。そこで完結。

だけど、あの人だけは、今の私や未来の私で会いたくない。会いたくないと言うより、今や未来ではあまり意味を為さないと思う。そして、あの場所で、会いたい。会いたい理由も謝りたいからではない。単純に、純粋に、あの時のままあの場所で、会いたいだけ。

 

 

私はあの時にあの人も私も閉じ込めてきた。タイムカプセルみたいにふたりを止めてきた。今のふたりが会ってもそのタイムカプセルは見つからないし、見つかっても開かない。

私が未来に進むには、あの時に戻って、あの場所で、あの人に会う。会ったことがスイッチになって、タイムカプセルが開いて、ようやくそこから私は進む。あの時から。

 

 

私がよく言うどこかに行きたいや誰かに会いたいは、嘘ではないけれど、お金持ちになりたいに似ている。自分からどこかへ行ったり会うんじゃなくて、誰かが決めたアタリがたまたま当たってお金持ちになれてしまうみたいなもの。

とても嬉しいけれど、それを本当に望んでいるのかと言われると、そんなことはなくて、多分ただの夢かただの言葉なだけで気持ちは無い。

なんてこんなことを言っていたら、きっと誰とも会わなくなる。まあ、いいけど。

 

 

「今どこに行きたい?」かあ。「誰に会いたい?」かあ。今をあまり考えていないから難しいや。とりあえず、冷蔵庫の中身が空っぽだからスーパーへ行きたい。お仕事疲れたから誰にも会いたくないなあ。